「外が…五月蝿い……」 蒲団の中で 人の声や物音に耳を傾ける ようやく眠りにつけたと思ったのに もう朝が訪れてしまったようだ 忍術学園は朝からこんなにも賑やかなのか、と 溜息を吐いた 半身を起こして窓の外に目をやると 空は見た事も無い不気味な色をしていた 自然な色ではない これは、 「…茶色っぽいって…まさか火事?」 窓の外に顔を出すと 学園の生徒や農民のような人達が沢山集まっている しかし 校舎が燃えている様子は無い その時 人だかりの中に 見知った顔を発見した 「兵助!…あれ、兵助くーん?」 呼び掛けると 兵助が私に気付いたらしく 此方へやって来た 「これは何事?朝なのに人が沢山居るけど…火事…?」 「局地的に起こっていた戦が広まったようでな…巻き込まれた農民が此処に逃げ込んできた」 「い、戦が……?」 「以前からこの近くで起こってはいたんだが 此処も危険になってきた」 怯える農民達の顔が 戦への恐怖を物語っている 「怪我人も出ていて 今回は少々厄介だ、は…」 「…私にも怪我の手当てくらいなら手伝える」 「しかし 無暗に外に出るのは危ない」 「生憎 私はこの部屋でお姫様ごっこしている程の 図太い神経は持っていないのよ」 絆創膏は持っているが 包帯や湿布の類は流石に一度戻らないと手に入らない ズレが生じ始めているのでなるべくトリップしたくない、なんて言ってはいられない状況だ 「兵助も学園に居るの?」 「俺達 高学年組は 家から出られない民が危険な所に未だ居る可能性があるから それを見に行く」 「…学園の外に出るって…危ないんでしょ!?」 「そりゃあ危険だけど 怖がっていたら 忍者にはなれないよ」 私が震えてどうするんだろう 兵助は 普段よりも更に締まった表情をしているというのに 「、危ないと感じたら元の時代に帰るんだ」 何も 言えなかった 私には 覚悟が無いんだ 「…駄目だ……トラベラー失格だ…」 09 eeriness 「ただいま!じいちゃん 救急箱ちょうだい!」 「三週間も帰って来なかったのに 一言目がそれか…」 「三週間!?昨日の朝 飛んだのに!精度悪くなりすぎ……で、救急箱は!?」 祖父の指差す方向へと駆ける 埃まみれの救急箱を見つけて 一先ず安心した 箱を開くと 一通りの物は揃っている事は確認出来たが マキロンは新しく買い換えた方がよさそうである 「マキロン買ったら また飛ぶね」 「待て、随分と精度が良くないようだが…それに救急箱なんて一体」 「こんな私でも 出来る限りの事はしたいの……トリップが出来なくなってでも 人を助けたい」 現代のような せかせかした雰囲気の一切無いあの場所で もっともっと 兵助と色々な話をしていたかった 彼が 私の事をただ“違う時代の人”だと思っている、それでも別によかった いつの間にか 私が勝手に彼の事を好きになってしまっただけなのだから * * * 「お嬢ちゃん このシュッてするヤツは何なんだ?沁みるんだが」 「最新の傷薬だから大丈夫 安心して!沁みるのは…我慢して」 私はこうして怪我をした人達の手当てをする事で 精一杯だ 今頃 彼は何処に居るのだろうか・・・ ただただ 時が過ぎていくばかり 「お嬢ちゃんも 平気かい?」 手当てを受けているおじさんが 私に訊ねた 「…私は大丈夫ですけど どうして…?」 「さっきから 眉をへの字にしていて とても悲しそうだ」 私はそんなに情けない表情をしていたのか 「……おじさんは 悲しくないの?戦が起こって」 「そりゃ悲しいさ、だが こういう事に慣れてしまっている自分も居る お嬢ちゃんは慣れていないみたいだが……慣れなくてもいいんだ、こんな事に」 NEXT → (09.10.11 戦場はすぐそこに) |